クレバーで行こう!
悔しい。非常に悔しい。見抜かれているのが悔しい。悔しいから、もうちょっと攻めてみることにした。と言っても、人のフンドシで相撲を取っているようなモンだから、まぁ、そこそこで遊ばせてもらおうかと。……やだなぁ、ヨシナリのフンドシ(笑)。
さて、マン島のヨシナリ、寝てます。よーく寝てます。「今まで時差ボケにはなったことがないんだよね。しかもオレ、もともとしょっちゅうよく寝てるから、時差ボケなのかいつものことなのかハッキリしないんだ」。相変わらずのリラックスムードである。「過剰に緊張しないタイプ」と豪語するだけのことはある。
昨日(5月23日)は、スポーツクラブで一汗流してから、マン島北西部・ジャービー飛行場跡地周辺で行われる公道レースを視察。目の前をアクセル全開で駆け抜けるリッター/600ccスーパースポーツマシンを見たヨシナリは、一言、「アホだよね……」。

「何かあったらバイクが飛んでくるぜ!」と完全にお客さん目線のヨシナリ。
GO──その「アホ」の仲間入りしようとしてるのは、アンタやないか。
ヨシナリ──まぁ、そうなんだけどさ……。レースを見るといっつも思うんだよね。「この人たち、スゲェな!」って。GO──……つまり、まだ自覚はないのね?
ヨシナリ──うん、完全に他人事(キッパリ)。気付くと自分も似たようなことやってるんだけどね(笑)。でも、まだ気持ちが上がってこないんだ。とにかく眠い。
公道レースの視察後、TTコース途中にあるラムジーの街でお茶して、居候しているピーターさんの家に帰り着くや、夜7時から朝4時まで泥のように寝たそうだ……。ホントに寝る人ね……。
そんな中でも、コースの下見を重ねるにつれ、ヨシナリは「これはエライこっちゃ」とマン島TTコースの凄味を実感しつつある。
「ビデオで見てた時は、『ずいぶんコーナーは攻めないんだな〜』『もっとイケるんじゃねえ?』なんて思ってたけど、とんでもないね(笑)。例えばスタートして最初の右コーナー、クォーターブリッジなんか、『超ゆっくりじゃん!』と思ってた。でも話を聞くと、交通量の多い交差点だからめちゃくちゃ滑りやすいうえに、スタート直後でフロントタイヤが冷えてて、しかもガソリン満タン……! これはひとつの例。各コーナーごとに、こんな感じの悪条件が複合的に重なりまくってるわけですよ。そりゃ闇雲に攻められるワケないよね」
GO──クレイジーなイメージが強いマン島TTだけど、全然そんなことないんだ。
ヨシナリ──そう! ものっすごく頭を使うレースなんだ。覚えなくちゃいけないことが多すぎて、もうパニックだよ。ミルキーさんとクルマでコースを周りながらメモを取りまくってるよ。あとで見返すと1/3以上は何書いてあるか判別できないんだけど(笑)。ほら、やっぱりクルマは揺れるからさぁ。ま、それ以前にそもそもコーナー名を覚え切れてないし。ハッハッハ。……大丈夫……だと信じたい。信じよう。信じなくちゃ。すでにクルマでTTコースを15周しているヨシナリ。今日(5月24日)は、これからミルキーさんにYZF-R1(08・スタンダード仕様)を借りて、バイクでの下見開始! おっ、いよいよキタか!?
「いやあ、この週末からライダーたちが増えてきて、それにつれてお巡りさんもアチコチにいるんだよね。気を付けなくちゃ」
……気を付けるのは、そこ?

マン島TTレース最強の男、ジョイ・ダンロップさんも心配気味。
新聞記事にちっちゃく載ったり、公式プログラムにゼッケン77と自分の名前を見つけては、「すっげぇ、オレだ!」と驚いたりしながら、そろそろヨシナリにもTTライダーとしての自覚が芽生えつつある……。
お世話になってます!

さすがカメラマン、ヨシナリの時差ボケを感じさせないキメ度合い!
それどころかピーターさんは自らのWEBSITEに「ヨシナリコーナー」まで作ってくれたんだとか。どれどれ(ココ)。あ、ホントだ、Matsu-sanだって。すげぇ!
「それにね、GOちゃん……」と、いつになく神妙なヨシナリ。「チーム(Black Horse Yamaha & club TROFE)にはレースマシンを用意してもらってるから、オレは自分の準備を整えることに専念できてるんだよ。マン島の人たちの親切や、日本の人たちのさまざまなサポートは、どれもものすごくありがたいし、助かるし、本当にいい体制なんだなって感謝してますよ」
いったい全体ヨシナリの何が、どこが、いかにして、マン島や日本の人々の親切心を掻き立てるのか分からない……。オレとしてはアゴ髭あたりがアヤシイのではないかと睨んでいるが、人々に愛され、「コイツのために何とかしてやろう」と思われることも、レーシングライダーにとって大切な資質。悔しいけれどヨシナリがそれを持ち合わせていることは間違いない。
……うーむ、とりあえずオレもアゴ髭伸ばすところから始めてみっかな……。
すごいぞヨシナリ!
とは言っても、ヨーロッパでの注目度は非常に高いし、参戦ライダーはみんなヒーローだ。もちろん、松下ヨシナリも。……そう、ヨシナリでさえも。
そのことを証明する写真が、コレだ!!

アグアグ…
ちなみに一番上に書かれている「Ian Lougher」の名は、マン島TTレースで7回優勝を遂げているイアン・ロッカー選手その人。現役ライダーであり、TEAM BLACK HORSE YAMAHAのオーナーでもある。Mats Nilsson選手はNW200やマン島TTなど公道レースで、Conor Cummins選手はイギリス選手権で活躍している。
何ともすンごいラインナップにキッチリと居並んでいるYoshinari Matsushita選手。「うれしいけど、かなりビビるね、コレ。だいぶ身の丈に合ってない感じがするなあ」と苦笑いするヨシナリだが、こりゃ確かにビビるだろうなぁ……。
しかも今シーズン、トレーラーはこのままの状態でイギリスのレースを転戦するそうだ。名前だけとはいえ、イギリスを回るとは……。ヤバイ、ヨシナリがだんだんスゴイ人に見えてきた……。
すごいポテンシャル…かも
ヨシナリ──だって風雨がすごくて怖いんだもん。
GO──「だもん」って(笑)。ヨシナリ──嵐の雲の中を走ってるみたいで、何にも見えないし。でも今日(5月28日)の朝はクルマで3周ぐらいしたよ。
GO──そんなんじゃ、せっかく借りたYZF-R1で走れないね。
ヨシナリ──借りた日と、その翌日に周回してるんだけどね。それがさ……。
スパイのように周囲を気にすると、ヨシナリは声を潜めた。その囁き声を何とか聞き取ったところによると、「路面がバンピーすぎて、ヘルメットがラララララッと揺れて、マンガみたい」。……もはや何を言っているのか理解不明である。常に路面の凸凹にさらされ、そこらじゅうでジャンプし続けていると、人間、ワケの分からないことを口走ってしまうらしい。
ただし、ヨシナリの名誉を守るために、「バイクで下見」とは言ってものんびりツーリングレベルではないことを補足しておこう。マン島は原則的に速度無制限。市街地などでは制限速度が設定されているが、部分的だ。ヨシナリも、すでに130〜150mph、つまり208〜240km/hぐらいはヨユーで出しちゃっているのである。
ヨシナリ──いや〜、2006年に走ってみた時には、メーター読みで157mphは見たんだよね。
GO──公道で251.2km/h! すっげぇ! もちろん巨大なトレーラーに巨大な名前を書かれるヨシナリなら、全然怖くないんでしょ?ヨシナリ──そりゃもう、オレクラスのライダーともなれば、もちろん怖いよ! だってさ、今は片側1車線で、普通に対向車も来るからね。
GO──なんつって、レースになれば怖くなくなるでしょ?
ヨシナリ──レースの時は道路が封鎖されるから、両側2車線まるまる使えて、対向車もいなくなる。だから、うん、やっぱり怖いよ!
GO──そうだよね……。
60kmのマン島TTコースをクルマで1周するのに、通常の時間帯だと早くても1時間5〜10分。真夜中や早朝に、速度無制限をフルに活用してブッ飛ばしても、40分はかかる。

そんなコースを、いざ本番でヨシナリはいったい何分で走ろうとしているのだろうか!?
ヨシナリ──走り始めは25分ぐらいを目標にして、最終的にはどこかのセッションで20分を切れたらいいかなって。
GO──ににに、20分を切る!?!?ヨシナリ──うん。あれ? なんか変?
GO──200分じゃなくて、20分!?!?
ヨシナリ──当たり前だよ! やだなぁGOちゃん。予選のボーダーがだいたい21分なんだから、それぐらいはいきたいよ。他のライダーともあんまりタイム差があるとかえって危ないし。
GO──あのさ、前田淳さんの参戦初年度のタイムって、21分11秒なんだよ。20分を切ったのは、参戦4回目。そういうタイムなんだよ。
ヨシナリ──あ〜、そりゃ無理だ。よし、20分切り断念。
GO──軽!
しかしこの軽さ、この途方もないノーテンキさの中に、何かが潜んでいるような気がしないでもないこともないが気のせいかも知れない。いや、もしかしたらヨシナリ、とんでもないポテンシャルの持ち主の可能性がないとは言い切れないではないこともない。
「だいぶコースを覚えてきて、コーナーのRなんかも分かってきた。でもまだ完璧に1周覚えてないんだよね(笑)」「怖さとの戦いっていうよりは、どれだけ素早く自分の記憶を引き出せるかが勝負だね。オレのニューロンの通信速度、遅いから(笑)」「最初の走行は30日。今は28日だから、おわっ、あと2日しかないじゃん(笑)」
(笑)は、しょんぼりとした笑いではなく、自信に満ちた力強い高笑いだった。ヨシナリ、やってくれるのかもしれない……。
ダンロップのトレーラーも到着し、タイヤサービスやホスピタリティブースの準備も着々と進み始めたマン島。ダンロップ・ライダーズナビでも「ヨシナリ愛のレポート」(こんなタイトルだったと思う)が着々更新中! こちらもチェックしてやってほしい。
ダンロップ・ライダーズナビ http://ridersnavi.com/special/man2009/あとはどなたか、ヨシナリの無事のために、ニューロンの通信速度を高めるための脳トレ法を伝授してやってほしい。切に。
ところで、チーフメカニックを務めるドッグファイトレーシングの中川若廣さんは、今回のメンバーで唯一の喫煙者。タバコを吸うたびに庭に追い出され、若干いじけ気味にチャリンコで暴走している。

頭の中はマシンのことでいっぱい……のはず!
メカニックのオートボーイJ’s・高崎ユースケさん、そしてマネージャーの浅田ふみよさんたちと、和気あいあいと楽しい日々を送っているヨシナリ。気がかりなのは、ニューロンの速度だけだ……。
manx.jp Matsushita’s blog http://www.manx.jp/matsu/
ピーター・カリスターさんWEBSITE http://www.petercallisterttphotos.co.uk/マン島TTレース 公式WEBSITE http://www.iomtt.com/
マン島TT2009 プロモーション動画 http://www.youtube.com/watch?v=avCMqvRsdaE
イエス、イエス、イエース!
ヨシナリ──何心配しちゃってんの? ま、見てよこの写真。

GO──ゲッ。赤い帽子のこのヒトは……。
ヨシナリ──あ、分かっちゃった? さすがGOちゃん。そう、ジョン・マクギネスですよ。マン島TTレースで勝ちまくってる最強の男ですよ。GO──い、いい、一緒にメシ食ったの?
ヨシナリ──ま、そういうことになるわな。「おうジョン、今年はだいぶ体絞ってきたな?」「おうマツ、頑張ってるか?」ってなもんだよ。ちなみにジョンの右隣で爽やかな笑顔を浮かべて緑色のパーカー着てる人は、サイドカーでいつも上位に着けてるライダーなんだよ。
GO──すげぇ……。けど、ヨシナリ英語しゃべれるんだっけ?
ヨシナリ──そりゃあもちろんまったく問題なくしゃべれないに決まってんじゃん。この時も、イアン・ロッカーさんの彼女に何か聞かれて「イエス、イエス、イエース!」って押し切ったけど、後でよーく考えてみたら、彼女、「クルマはどこに停めたの?」って聞いてたっぽいんだよね。“Where…”に対して“Yes”だからね。最強だよオレ。
GO──じゃあ、マクギネスと「ジョン!」「マツ!」って呼び合ったって言うのは……。
ヨシナリ──やだなぁもう。これぞマン島ジョークだよ。ハッハッハ。あ、ついでに言っとくけど、今回のマン島TTレースにはバレが来るんだけどさ。
GO──バレって、バレンティーノ・ロッシのことね……?
ヨシナリ──ああごめん、つい。そう、バレが来る理由、表向きはパレードラップと表彰式のプレゼンターってことになってるけど、ホントはオレに会いに来るんだよ。
GO──へーそうなんだー(棒読み)。
ヨシナリ──イエス、イエース! イッツ・マン島・ジョーク! イエース!!
GO──イ、イエー……、ス……。
ちなみにヨシナリは禁酒しており、シラフである。この会食の際も、軽く400〜500gはありそうなリブステーキをガツガツ食らい、ワインをガブ飲みするマクギネスに圧倒されながらも、禁酒を貫いたヨシナリ。にも関わらずマン島ジョークなどとカッ飛んでいるのは、走行が近付きいよいよ高まる緊張感を少しでも解きほぐすためだ。
と、信じなくちゃやってらんねぇのに、ヨシナリときたら、「それがさ、まだ全然緊張してないんだよね」である。「今朝も霧の中をクルマでコース下見に出かけたんだけど、途中で眠くなっちゃってさ。まーいっかーって」と相変わらず豪快だ。しかしオレは知っている。最強ライダーとの会食を始め、彼に巻き起こる信じがたい幸運の数々が、否応なしに彼をカッ飛ばしていることを。そう、豪快なカッ飛びは、プレッシャーをはねのけようとする彼ならではのガス抜きなのだ。
例えば、チームのガレージ位置。ピットに最も近い場所から、ホンダ、スズキのワークスチーム、そしてヨシナリが所属するTEAM BLACKHORSE YAMAHA。つまりヤマハ最強チームの中にヨシナリは放り込まれているワケである。
GO──いきなりそんな環境じゃ、そりゃあ少しはおかしくもなるよね……。
ヨシナリ──そ? チームメイトに「オマエは全日本に参戦してるのか?」って聞かれて、「いや、その下のローカル選手権だ」って答えたら、「ふーん、そっか」って、特別気にしてないみたいだったよ。そんなの全然関係ないってことみたい。大事なのは、ここにいるってことなんだ。GO──恐るべき前向きさだ……。
ヨシナリ──おととい引っ越してきた新しい家の番号は、大ちゃん(加藤大治郎)のゼッケン、74だったりね。気付いたらマクギネスとメシ食ってたり、うん、運よすぎるよ、オレ。なんかいいことあるかも〜! 20分切っちゃうかも〜! 無理か。ハッハッハ。
この破壊的な前向きさこそ、ヨシナリの真骨頂である。思えば三宅島でイアン・ロッカーさんと知り合った時、大胆にも「ちょっとちょっとイアン! オレ、マン島TTレースに出たいんだから、何か手伝ってよ」と声をかけたのが、今回の参戦の大きな後押しとなっている。ヨシナリ自身、こう振り返る。
「いやあ、知り合った当時はイアンがどんだけスゴイ人かよく分かってなかったんだよね。今になってみれば、MotoGPチームマネージャーのグレシーニさんに『オレ、GPに出たいからさァ。何とかしてよね』と言っちゃってるようなもんでしょう? 我ながら恐ろしいことをしたもんだと思うよ」
確かに恐ろしいことだ。しかし、この驚異的な前向きさがなければ、予選開始を数時間後に控え、今なおノホホン状態のヨシナリもいない。……エーッ!? まだノホホンかよ! もうすぐ予選が始まるんだぜ!
ヨシナリ──ホントに心配性だなぁ。じゃ、この写真見てよ。

ヨシナリ──ね? 真剣な表情で打ち合わせしてるでしょ? ちゃんとポジション合わせしたり、なんか名前を聞いたことがないメーカーのリヤサスを付けてみたりしてるんだから。YZF-R1についても、イアンに「速い?」って聞いたら「速いよ」って答えてくれたんだから。綿密なんだぜ!
GO──ね、ね、ひとつ聞いていい?ヨシナリ──何でも聞いてよ。
GO──この表情、作ってない?
ヨシナリ──全然作ってないよ! 真剣なフリしてるだけだよ!!
GO──……。
日本時間5月31日(日)午前2時20分、ヨシナリの予選が始まる。タイムなんかどうでもいい。心の底から彼の無事を祈ると同時に、この壊滅的な前向きさがあれば、まぁたいていのことは大丈夫なような気がしてくるから不思議だ。ヨシナリマジック……。
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ピーター・カリスターさんWEBSITE http://www.petercallisterttphotos.co.uk/マン島TTレース 公式WEBSITE http://www.iomtt.com/
マン島TT2009 プロモーション動画 http://www.youtube.com/watch?v=avCMqvRsdaE
![大人のためのバイク&ファッション総合サイト|MOTONAVI.net [モトナビネット]](/img/share/logo.png)

デザイナー、イベントMC、レースアナウンサー、レーシングライダー、バックカントリースキーヤー、モデルなど、多彩な活動を精力的に行っている超個性派二輪ジャーナリスト。09年6月、世界最古のロードレース『マン島TT』への出場が決定している。08年のもて耐ではBMWチームの勝利に貢献するなど、ビッグイベント耐久で立て続けに優勝を飾り、バイクの大小に関わらず、なんでも乗りこなす高いスキルを証明して見せた。イベントレースにも積極的に参加し、オートバイの楽しさと文化性を広く啓蒙する、愛車BMW R1100Sとの旅を愛するツーリングライダーの側面も持っている。